今日は、まだ陽も高いし、夕食は予定通り、海へ降りてバーベキューをしようと言う事になったものだから、 博人、健、野上君の3人は張り切って釣りに行ってしまった。
 「女の子だけじゃ大変だろう」と、藤田君だけが残ってくれたから、台所の勝手を知ってる栄子と萌が台所で料理の準備係、私と藤田君とでバーべキューの準備をすることにした。
 重たい荷物は全部藤田君が持ってくれたから、私は折りたたみのイスや、コップ、お皿類を持って、海岸へと降りていった。
 春のうららかな暖かさから、夏のギラギラした灼熱へと移り変わる、丁度栄え目の、太陽の日差しが、とっても気持ちが良い。
 「博人達、魚なんて釣れるのかしらね」
 私がテーブルをセッティングしながら言うと、藤田君はバーベキュー用の半分に切られたドラム缶に、網を備え付けながら、
 「さぁね、こんな時間からちょっと行って釣れるんだったら、とっくにここは釣り人だらけだと思うけどな」
 と、冗談っぽく笑ってみせた。
 その夜のバーベキューは、海も貸切り状態で、とっても開放的な楽しいものだった。 男連中は海での収穫として、魚は思った通り無かったものの、どう矛先を変えたのか、バケツ半分ほどのアサリ貝を持って帰ってきた。私たちは、それを、網の上にアルミを敷いて、バター焼きにした。暗くなっても、リビングの窓からの明かりの下、砂浜のテーブルを囲んで、いつまでもいつまでも、楽しいお酒と馬鹿な話しと、潮風に酔いしれていた。
 結局片付けは明日にしようということで、みんながリビングに戻って順番にお風呂に入っている間、萌が酔い覚ましに入れてくれたコーヒーを飲んだり、あるいはお酒を飲みなおしたりと、みんなでまたテーブルを囲む事となった。
 簡単に明日の撮影や、遊びの予定を打ち合わせして、みんながそれぞれ自分の部屋に戻った頃には、もう夜中の2時を回っていた。
 私も部屋に戻って、ゴロンとベッドに横になる。
 今日はホントに楽しかった。ぼんやりと、『来年の今ごろは、みんな就職したり、それぞれの進路に進んでいるんだろうな』なんて考えると、少し寂しくなる。いつまでもこんな日が続けば良いのに・・・
 そんな事を考えながらも、体は結構疲れていたようで、私はそのまま急激に、眠りに落ちていった・・・

 私はぼんやりと目を開けた。
 今、何時だろう。朝?それとも夜?部屋の中は薄暗い。
 頭が割れるように痛い。頭だけじゃない。なんだか体中がギシギシと痛い。 気が付くと、私はベッドじゃなく、床の上にそのまま寝ていた。体中か痛いはずだ。
 私は、まだボーっとしている頭を軽く振って、起き上がった。
 その時、なんだか手に、ひんやりとした感覚がまとわり付いた。
 ・・・なんだろう・・・
 薄暗闇の中自分の手を見ても、一瞬何がなんだか理解できない。 ・・・これは何?・・・
 私はゆっくりと部屋の中を見回した。
 何か様子が昨夜と違う。ここは私の部屋じゃない。どこだろう?私は辺りを見まわし、 ”それ”を見つけて、一瞬にして凍りつく。
 そこには、藤田君が血まみれで横たわっていた。
 「藤田君!どうしたの」
 軽く藤田君の体をゆすって見ても、まるで人形のように何の反応も無い。 素人の私が見ても、死んでいる事が一目瞭然だ。 一体何が起こったのか、考える頭も働かない。
 こんなときテレビみたいに「きゃー」と叫ぶのがいかに嘘っぱちな事か・・・私は声も出せず、その場に固まったように、座り込んだまま身動きが出来なかった。
 どのくらいたったのか、それとも、ホントはほんの少しの時間しか経っていないのか・・・私はようやく、頭がはっきりしてきた。
 藤田君が死んだ。
 まずはみんなに知らせないと。 それから警察に電話だ。
 私は立ち上がって、ドアのノブに手をかけて、愕然とした。
 ・・・鍵がかかってる・・・
 まさか、自殺?
 私は恐る恐る、もう一度冷たくなっちる藤田君を見た。
 違う。自殺じゃない。藤田君の背中には、今も包丁らしきものが、突き立てられている。暗がりに目が慣れてきて、気が付くと、床に何か血で文字が書かれている。

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 何だろう。
 それと、もうひとつ、もっとも重要な事。
 ここは、藤田君の部屋。ここの部屋の鍵はかかっていて、その鍵は今、私の足元に、ちゃんと落ちている。 しかも、私は手も服も、べっとりと血が付いている。
 このままのこの状況では、私は犯人だと言われても、おかしくないのだ。
 考えた挙句、私は・・・

●みんなに知らせる●

●とにかくここから逃げる●

●親友の萌に相談する●