私の頭の中は混乱して、すっかりパニック状態になってしまった。こんな問題を一人では抱え切れない。かといって、誰にでも話せることではない。
私は、少し考えて、とにかく、大親友の萌に相談することにした。
そう考えると、私はすぐに、自分で部屋のドアの鍵を開けて、廊下に出た。他の部屋に気を使いながら、萌の部屋のドアを小さくノックすると、以外にも、萌はすぐに出てきてくれた。
私は、何か言おうとしたけど、がたがたと震えて歯の根が合わない。
「美咲。どうしたの?こんな時間に」
萌の言葉にも何から話して良いのか分からずに、ただただ震えていると、萌がようやく、私の服についた血に気が付いて、顔色を変えた。
「どうしたの、この血!何があったの!!」
「目が覚めたら、横で藤田君が・・・死んでて・・・」
私がやっとの事でそう言うと、萌はすぐに部屋を出ていこうとした。私は慌ててその萌の腕を掴んで言った。
「部屋には鍵がかかってたの」
萌は一瞬意味がわからないような顔をした。
「どう言う事?」
「部屋に鍵がかかってて・・・鍵は部屋の中に落ちてた・・・」
萌は少し考えると、私を部屋の中に入れてベッドに座らせた。そして、ドアを閉め、自分はイスに座って私と向かい合った。
「どうして?自殺なの?」
「違うと思う。包丁みたいなのが背中に刺さってた・・・」
「部屋はどこ?美咲の部屋?藤田君の部屋?」
「藤田君の部屋」
しばらく考えこむと、萌は私を残して部屋を出ていった。きっと、部屋に様子を見に行ったんだろう。その間、私はこれまでに起こった出来事を、ゆっくり整理した。考えれば考えるほど、何が何だかわからないことだらけだ。
10分程して、萌がホットミルクティーを持って戻ってきた。萌はそれを私に手渡しながら、ゆっくりとまた、イスに座るとひとつため息をついた。
「鍵は美咲が掛けたの?」
私は首を振った。
「美咲、どうして藤田君の部屋にいたの?」
「わかんないの。自分の部屋でウトウトしてたところまでは記憶があるんだけど、とにかく目が覚めたら、隣で藤田君が死んでたのよ。でも、私じゃない!!」
萌はそう言う私をじっと見つめていた。やっぱり萌は、私を疑っているんだろうか。
「美咲。気を悪くしないでね。はっきり言うけど、犯人は美咲しか考えられない。本当に美咲じゃないのね?」
「違うわ!!絶対に私じゃない。萌。信じて!!」
私がそう言うと、萌はゆっくり頷いた。
「分かった。信じるから、興奮しないで。ほら、紅茶飲んで」
私は言われた通りに萌が入れて来てくれた紅茶に口をつけた。私が少し落ち着きを取り戻すのを待って、萌が言葉を選ぶように言った。
「美咲。あなたが犯人じゃないって事は信じる。でも、それがどういう事だか分かる?」
私が分からないと言う顔で見返すと、萌はゆっくりと口を開いた。
「誰かが美咲に罪を着せようとしたってことよ」
私は萌の意外な言葉に、頭を強く殴られたような衝撃を受けた。良く考えたら、確かにそうだ。犯人はわざわざ私を藤田君の部屋に運んで、ご丁寧に密室まで作ったのだ。これは計画的に私に罪を着せ様としたって事だ。
私が考え込んでいると、萌が立ち上がって、部屋を出ようとした。
「どこに行くの?」
「みんなを起こして、それから警察を呼んでくる。いつまでも藤田君をあのままにはしておけないわ」
「私も一緒に・・・」
一人にされるのが不安で、思わず私も立ち上がって付いて行こうとしたけど、萌はそれを手で静止した。
「今行ったら犯人扱いされるだけよ。それに、真犯人が今度は美咲を狙うかも知れない。今はここにいて」
そう言うと、萌は部屋を出ていった。
その後、みんなが起きだし、藤田君を発見して警察を呼んで・・・そんなテレビドラマのような出来事を、私はドア越しに聞いていた。
本当に私は隠れていて良かったんだろうか。
こうしている事で、余計疑われるんじゃないだろうか。
そんな、一抹の不安を抱えながら、私は萌が戻ってくるのをただじっと、待っていた。
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