ここに残るのは怖いけど、外に出れば、間違いなく捕まってしまう。そうなったら、どの道私の人生に先はないのだ。
 それだったら、起死回生の一発に賭けて、ここで先に進んだ方がいい。
 私はそう考えると、洞窟の奥の穴へと入っていった。
 穴は以外にも長く続いていて、しかも、少しではあるが、上り坂になっていた。一番突き当たりは何故かうっすらと明るい。周りを見渡すと、丁度ここは、浜辺の岩場の真下に位置しているようで、ごつごつとした天井の隙間から、外の光が刺しこんでいるのだ。しかも、ここは外からは出入りできないし、岩の隙間だから、もし、岩場を人が通ったとしても、見つかる心配は、ほとんど無い。
 後は、潮がどの辺りまで満ちてくるかだが・・・
 私は祈るように、潮が満ちてくるのを待った。
 だんだんと押し寄せてきた海の水は、私の足元で、その前進を止めた。
 助かったのだ----潮から助かっただけではない。ここにいる限り、警察の捜索に捕まる心配も無いのだ。
 こうして、私は、絶好の隠れ家を手に入れた。
 後は、本当の犯人が誰なのか、考えないといけない。時間は沢山あるのだ。ひとつづつ片付けていこう。
 まずは、何故、私が犯人にされたのかと言う事だ。
 思い当たる事は、何も無い。それどころか、私以外のメンバーの中にも、藤田君を殺す動機があった人なんて、思いつかないのだ。
 もしかしたら、外から入ってきた、知らない誰かが犯人なんだろうか?
 でも、そうだとしたら、私を犯人に仕立て上げて、わざわざ密室まで作ったことの説明がつかない。
 それに、藤田君が残した、ダイイングメッセージが気になる。全く知らない人の手がかりなんて、藤田君には残し様が無かったはずだ。
 考えながら、私は、とがった石を拾って、岩肌に藤田君の部屋で見た、数字の暗号を書いてみた。
  
 
1475369/258

 何の数字だろう。何か、大学の中でこんな数字を見た事が無いか、それとも、私たちがやっている、映画の撮影で使っている数字に、こんなのが無かったか。いろいろな可能性を一生懸命考えるけど、やっぱり分からない。
 
 その日は、考える事だけに一日を費やし、夜を迎えた。潮はまた引いて、洞窟の入り口が顔を出したが、夕方過ぎに、パトカーが別荘のほうから遠ざかっていくのを天井の岩の隙間から覗いてからは、人の気配も無くなり、ひっそりとしていた。
 私は注意深く洞窟から出ると、辺りを見まわした。
 きっと、パトカーは帰っても、何人かの警官が、別荘近くにいることだろう。様子は気になるが、今日は、別荘に近づかないほうが良い。
 私は、そっと国道の方に出てみた。近くにコンビニが見える。これから何日こんな生活をしなきゃいけないか、分からない以上、ある程度の買い物をしておきたいが、私がコンビニに入るのは、危険過ぎる。
 迷っていると、丁度そこに、自転車に乗った小学生くらいの男の子が通りかかった。見たところ、地元の子らしい。
 私は、思い切って、その男の子たちに話しかけると、お使いを頼むことにした。
 15分程待つと、男の子達は、私が頼んだ物----食料、飲みもの、タオル、ティッシュ、懐中電灯、ペン、メモ帳、など----を買ってきてくれた。
 私は、その子たちに、固く固く口止めすると、充分過ぎるほどのお駄賃を渡した。
 そうして、私はまた、あの洞窟の中に戻ると、今日一日で、思っていた以上に疲れていたらしく、あっという間に眠りに落ちていった。

 次の日の気分は最悪だった。
 目が覚めたのはもう、昼近くて、また洞窟の入り口は海の中にその姿をすっぽりと隠していた。
 念の為に寝心地の良い入り口近くでなく、この洞窟の奥の岩場に寝ていた事は正解だったが、おかげで、体のあちこちが痛かった。
 私が目を覚ましたのは、人の話し声が聞こえたからだ。
 上を見上げると、どうやら、地元の人が、岩場に座って話しをしているようだった。
 私はなるべくその場所から離れようとしたが、その時、その話し声が耳に入り、思わず足を止めた。
 「また、坂田さん所の別荘で、人が死んだんだってなぁ」
 私は話している人たちに気付かれない様に、そっと、その人たちの真下まで行って、聞き耳を立てた。
 「そうそう。二日続けて、二人目だ」
 「こんな田舎町で、まさかそんな事件が起こるなんてなぁ」
 「全くだ。なんでも犯人はまだ逃げてるそうじゃないか」
 「子供たちにも、出歩かない様に言っとかないとなぁ」
 そう言うと、その人たちは、その場を離れていった。
 また、別荘で殺人?
 藤田君のほかにも誰かが殺されたんだ。そして、また、私が犯人扱いされている。
 私は、ここに来て、ようやく犯人が、私が逃げるまで110番しなかった理由が分かった気がした。
 犯人は、まだ、殺人を続けるつもりだったのだ。そして、その罪を私に着せるためには、私にあっさり捕まってもらっては困るのだ。
 ・・・と、言う事は、犯人は、まだ、誰か殺すつもりでいるんだろうか?それとも、もうこれで、終わりなんだろうか?
 私は考えれば考えるほど、いても立ってもいられなくなった。
 そうこうしているうちに、また夜がやってきて、洞窟の入り口が顔を出した。
 私は一刻も早く別荘へ行って、様子を見たい衝動にかられたが、それがどんなに危険な事かも承知している。
 私は・・・
 

●ここでもう少し様子を見る●
●別荘に様子を見に行く●