やっぱり私は、部屋を出る事は出来なかった。もし私が捕まれば、私どころか協力してくれている萌まで危険にさらす事になる。私は萌が戻ってくるのをじっと待っていた。
 すぐに私は自分の判断が正しかった事を知る事になる。
 この部屋は、怪しまれないように、萌が電気を消していったせいで、真っ暗だったけど、ドアの下の隙間から、廊下の明かりが漏れていて、廊下を通る警官の足の影が何度か横切ったのだ。誰もいないと思っていたけど、何人かの警官が現場に残っていたらしい。
 私は物音をたてない様に気を付けながら、長い時間を過ごした。
 しばらくして、萌が、また私の食事を持って戻ってきてくれた。
 「みんなすっかり疑心暗鬼で、雰囲気は最悪なの。何だかよそよそしくって。あんなに楽しい仲間同士だったのに・・・」
 萌が悲しそうに目を伏せた。私は、犯人に対して、だんだんと怒りが込み上げてくるのを感じていた。
 萌は今日の取調べと、捜査の状況を教えてくれた。
 あの数字の血文字は、警察でも初めはダイイングメッセージと考えていたようだけど、健の部屋からも見付かった事で、犯人が何らかの理由で残したメッセージと言う方向で解読に乗り出したらしい。
 それと、もうひとつ、萌が新しい情報を教えてくれた。 
 健の部屋は、密室ではなかったらしい。
 考えて見れば、当然と言えば当然だ。犯人は私に罪を着せるために、部屋を密室にしたのだから、健の部屋まで密室にしてしまったら、逆に私に罪を着せにくくなる。藤田君の時、私は自分で部屋の鍵を開けて逃げたんだから、部屋が密室だった事を知っているのは私と萌の他には犯人だけなのだ。
 一瞬私の頭の中で、恐ろしい考えが顔を出した。
 もしも、犯人が萌だったら・・・
 いや。やめよう。
 萌は私を信じてくれた。危険を犯してまで私をかくまってくれているのだ。私が萌を信じないなんて、裏切りだ。
 私はその考えを慌てて頭の中から振り払った。
 今日は警官が別荘内に泊り込むらしい。あまり話をしていて誰かに聞かれたら大変だ。私たちは少し早いけど、寝ることにした。
 私はまた、念の為クローゼットの中で寝る事になったけど、事件の事を考えると、なかなか寝つけなかった。
 みんなは、一体私のことをどう思っているんだろう。本当に私が犯人だと思っているんだろうか。それとも、少しでも私のことを信じて、心配してくれてる人がいるだろうか。
 みんなが疑心暗鬼になっている状況で、萌は本当に心から私のことを信じてくれていると思ってもいいんだろうか。
 それと、もうひとつ。
 今日、実は、何か気になった事があったのだ。とても重要な事だったと思うんだけど、でも、思いついた次の瞬間に別の事を考えたか何かで、その”思いついた事”が何だったのか、分からなくなってしまったのだ。
 何だっただろう・・・私はその事を思い出そうと今日の出来事を一つ一つ振り返ったけど、どうしても思い出せなかった。
 いつのまにか、私はそのまま眠りに落ちていった・・・

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