私は部屋に戻っても、ずっとあの数字の事を考えていた。でも、やっぱり何も思いつかない。
大体なんで、犯人はあんなメッセージなんかを残す必要があったんだろう。手がかりを残せばその分、つかまる可能性だって増えてくるのに。
私がしばらく考えていると、不意にドアをノックする音がして、萌が顔を出した。
「美咲。ちょっと話せる?」
「いいよ。下に行ってコーヒーでも入れようか」
そう言うと私は萌の先に立って、台所へと行き、2人分のコーヒーを用意すると、リビングへ入っていった。萌はその間、ずっと黙って私の後ろを付いて歩いた。 きっと、一人になるのが怖くて、アリバイのある私だけしか信用が出来ないでいるんだろう。
リビングのソファーに腰を下ろして、私はなるべく穏やかに萌話しかけた。
「話って何?」
「うん・・・」
萌は少しもじもじするように話し始めた。
「ごめんね。実を言うと、初めはほんの少しだけ、美咲のこと疑ってたの」
「それはあの状況だったら仕方ないよ」
私がなるべくなんでも無いように言うと、萌はやっと、ちょっとだけ笑ってくれた。
「今朝、美咲は刑事さんに連れられて、健の部屋に行ってたでしょう?何か分かった事とかあるのかな」
初めは、萌が何を聞きたいのか分からずに、返事に困っていると、萌は慌てたように付け加えた。
「犯人の目星とか、手がかりとか・・・」
そうか。警察が、内部の人間を疑っているのかとか、仲間の中に警察にマークされている人がいるのか・・・そういう事が聞きたいんだろう。でも、自分自信が仲間を疑っている事を悟られたくなくて、こんな遠まわしな言い方をしてるんだ。
私は警察が内部犯だと考えていることは、あえて言わず、あの暗号のことだけを萌に話した。ただし、あまり詳しくは言わず、犯人からのメッセージらしいということも言わなかった。
「何か思い当たることはない?」
萌もしばらく考えていたけど、結局は何も思い当たらないらしく、首を傾げた。
そんな大親友の萌を見ても、心の片隅で、『もしかしたら、萌が犯人で、捜査の進行状況を探ってるんじゃないか』なんて考えてしまう自分が、とても醜く思えてくる。
その時、野上君が、リビングに入ってきて、私たちを見て、はっとしたように足を止めた。
「どうしたの?」
私が声をかけると、ちょっとほっとしたように表情を崩して、ソファーの方に歩み寄ってきた。
「ああ、電話を探しに来たんだ。携帯の充電機忘れちまって・・・」
そう言いながら、リビングの隅にある電話機を見つけると、受話器を取りながら、さらに続けた。
「健の家に電話しとこうと思ってさ。一応警察からは連絡が行ってるはずだけど、俺おふくろさんとかにも良くしてもらってたから・・・」
野上君が電話をしている間に、私は新しいコーヒーの準備をした。
萌は、急に黙ったまま、何も話さなくなってしまった。
その日の夕食は、私を中心に当たり触りのない会話を交わして、ぎこちない時間を過ごした。ほんの何日か前までは、あんなに気の合う楽しい仲間同士だったのに、今はこんなにも、みんなが疑心暗鬼になっている。その事が、急に、私の中で、怒りとなって込み上げてきた。
この事件の犯人は、確かに私の大切な仲間かも知れない。でも、こんな風に2人もの人間を殺し、残された者たちを、恐怖と猜疑心でがんじがらめにしてしまう。その時点で既に、もう、私の知っている仲間では無くなっているのかも知れない。
翌朝、私はまた、刑事さんがドアをノックする音で目を覚ますことになる。この時点で、私は既に犯人に対して、押さえきれない怒りを抱くようになっていた。
刑事さんに連れられて、行った先では・・・野上君が冷たくなって、横たわっていた・・・
「山口さん、ここを見てください」
刑事さんが指差す先を見て、私ははっとした。そこにはまた、あの暗号のような数字が書いてあった。
12573/14728369
一体何のメッセージなんだろう。
この暗号以外は、現場の状況は、前の2件とほぼ同じなのだ。遺体の背中に別荘の台所の包丁、部屋には鍵がかかっていて、床に部屋の鍵・・・そして、遺体のそばに血文字で数字の暗号・・・
私は現場を一通り見終えると、刑事さんと一緒に下のリビングに降りていった。そこは何人かの警官が常に出入りしていて、そのリビングの中央のソファーに、博人がぼんやりと座っていた。
博人は私の姿を見つけると、力なく笑った。
「今栄子がコーヒーを入れに行ってるよ。また遺体を見たんだろ?大丈夫か?」
相変わらず博人は優しい。ずっと前、付き合っていたときも、博人はいつも私に優しかったっけ。
私が博人の隣に腰掛けると、丁度栄子が、警官に付き添われて、トレーにコーヒーをのせて、運んできた。
「萌は?」
私が聞くと、二人は顔を見合わせて、栄子が苦い表情で言った。
「部屋から出てこないのよ」
きっと誰も信用できず、部屋に閉じこもって、一人で震えている事だろう。私は刑事さんに頼んで、萌を呼んできてもらう事にした。
こんなに仲間をばらばらにした犯人が許せない。私は萌が来るまでに頭の中を整理した。何かが心の中で引っかかっているんだけどそれが何なのか、思い出せそうで思い出せないのだ。
ようやくリビングのドアから、警官に付き添われた萌が、顔を見せた。
私はその、萌の姿を見て、部屋を見まわして、みんなの顔を見まわして・・・ふとある考えが頭に浮かんだ。
<ぷりこからの挑戦>
さあ、じっくり考えてください。これから犯人を追い詰めてゆきます。
その切り口は?
”あの時”妙な事を言った人がいる!!
密室のトリックが分かった!!
あの数字の暗号が解けた!!