私はそのまま、ベランダを伝って、萌の部屋の窓の前へと来ていた。
 何と言っても、この事件は、最初に私を睡眠薬で眠らせないと始まらなかったはずだ。でも、あの時、萌がコーヒーを入れてこなかったら、私は睡眠薬を飲む機会は無かった。もし、萌以外の誰かが犯人だったとしたら、萌がコーヒーを入れて来たのは全くの偶然だったという事になる。私に睡眠薬を飲ませたかった犯人が、そんな偶然をじっと待っていたなんて考えられない。
 それに、あの日、萌だけがお酒を呑まなかった。それは、萌がお酒を呑めないからだけど、それだって、犯行を行うには一人だけシラフだと言うのが好都合だったんじゃないだろうか。
 私は、そんな事を考えながら、萌の部屋の窓をそっと覗いた。
 カーテンが敷かれていて、中の様子は見えないけど、中に人が居る気配がある。萌は部屋に居るらしい。
 私は意を決して、部屋の窓を軽くノックした。
 私には、確信があった。萌が犯人なら、私が現れた事に、動揺はするだろうが、決して大声を出したりせずに、部屋へ招き入れるはずだ。
 萌が少しだけカーテンを開け、外を覗いた。
 そして、私の姿を見つけると、驚いたように目を大きく見開いた。
 「萌。話があるの。中に入れてくれる?」
 私はあくまで冷静を装って、小声で話しかけた。
 萌は尚も動かず、何も言わない。
 「数字の暗号も解けた。密室のトリックも解けたわ」
 私は萌の反応をうかがった。
 萌は目を見開いたまま首を振った。
 「何言ってるの。密室なんて・・・」
 そうか、やっぱり二件目と三件目の事件は、密室ではなかったんだ。そして、一件目だって、私が鍵を開けて逃げたんだから、密室だったなんて事は誰も知らないのだ。犯人以外は・・・
 ここで、萌が密室の話しに乗ってくれば、犯人である事は間違い無いと誘導してみたのに、萌は乗ってこなかった。以外に手ごわい。
 私は駆け引きは無駄だと悟ると、単刀直入に切り出すことにした。
 「私、三人を殺した犯人が分かったの」
 私が言うと、萌は後ずさる様に一歩引いて、また首を振った。
 「犯人は美咲でしょう?何しに来たの?」
 「違う!!犯人は萌。あなたでしょう!!」
 私がそう言って窓の枠を掴むと、驚いたように萌は部屋へと引っ込んでしまった。
 そして、次の瞬間、別荘中に響き渡る、萌の悲鳴が聞こえた。 

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