メッセージ
空は晴れ渡り、絶好のドライブ日和。
私、山口 美咲は、友人たちと7人組みで、海の近くにある別荘でこの5連休を過ごそうと、目的地への道のりを急いでいる。
メンバーは、みんな、大学の映画研究会の仲間で、この連休中に、別荘での撮影をしようという事になったんだけど、もちろん、海も近いし、のんびりと過ごすことを、とっても楽しみにしているのだ。
今回は、私の脚本なんだけど、この撮影では私は、記録を担当する事になっている。他のメンバーは、
田中 萌 メイク・スタイリスト。私の一番の親友。
小島 健 カメラマン。
野上 雅彦 照明兼小道具。
前田 博人 監督。実は私の元彼だったりする。
藤田 芳雄 役者。
坂田 栄子 役者。
藤田君と栄子は、サークルこそ違うけど、私たちのクラスメートである。
人数の少ない我が映研では、カメラマン以外は、全員が撮影をしながら、ちょっとづつ役を持っていて、出演することになる。でも、やっぱり露出度の多い役は、撮影をしながらでは限界があるから、この2人にはいつも出演をお願いしている、いわば、準部員のような存在なのだ。
行きの車の中は、既にすっかりバカンス気分で、みんなすっかり開放的な気分に浸っていた。
「おい、美咲ビールとってくれよ」
「いいわね、私にも頂戴」
「おい健、栄子!人に運転させといて、飲む気か?」
運転している博人がバックミラー越しに、後ろを睨み付ける。
「ほら、博人、しっかり前向いて運転してよ」
助手席の萌が博人の腕を突っつく。
「おまえはいいよな。呑めないんだから。この悔しさはわかんないだろう」
「代わってあげたいけど、私免許持ってないしね」
「ちぇっ」
ふと後ろが静かだなと思って振り向くと、三列シートのワンボックスカーの、最後列に陣取っている野上君と藤田君は、既にこっそり呑み始めていて、もうほろ酔い気分の様子。
「何よ。もう呑んでたのね。まったく。張り切って後ろに乗り込んだかと思ったら・・・」」
「しっ。美咲。博人に聞こえるよ」
「もう聞こえてるよ!!」
一番前から、恨めしそうに博人が叫ぶ。
こんな調子で、私たちは、途中途中で景色のきれいな場所や、サービスエリアなんかにも立ち寄りながら、笑い声の絶えない旅を送っていた。
天気は快晴。もうじき夏に差しかかろうとする太陽の日差しが、すがすがしくって、さわやかな風が、私たちをそわそわさせる。
あちこちで寄り道をしたせいで、別荘に着いた頃にはもう3時を回っていた。
別荘は私たちの想像をはるかに超える豪華さだった。
栄子のお父さんの持ち物らしくて、今回も宿泊先を探していた私たちに、栄子が「家の別荘においでよ」と言ってくれたのだった。
門をくぐるとちょっとした西洋風の庭があって、玄関へと石造りの小道が伸びている。庭を取り囲むように植え込みがしてあって、海側からは、直接海岸に降りられるように、階段まで作られている。
「すっごーい!」
思わず私たちは感嘆の声をあげた。
「栄子んちって、お金持ちだったんだなぁ」
「わぁ、海に直接降りられるぞ!」
みんな口ぐちに感想を言いながら、はしゃいだように庭中を散策してまわった。玄関をあけると、まず、広いエントランスがあって、台所や、リビングへとフローリングの廊下が続いている。何よりも私たちを感動させたのは、リビングの壁一面に張られた窓から見える、海の眺めだった。