投げつけられて見事顔面にヒットした、湿ったタオルを取りながら、平次は罰が悪そうに、悪戯っぽく笑った。 「お〜。こわいこわい。」 白い歯を見せる平次に、今度は新一が呆れたような顔を向ける。 「ったく、相変わらず喧嘩ばっかしてだな、お前ら。」 「まあな。怒りっぽい上、地獄耳や。油断ならんやっちゃ。」 「お前がいつも怒らす様な事ばっか言うからだろ。」 新一の言葉に、平次は頭を掻きながら不思議そうに言い訳をする。 「それや。なんでやろな。あいつ見てると、ついからかいたくなんねんな。」 「小学生が好きな相手に悪戯するようなもんだろ。いい加減そういうの卒業しろよな。」 新一が呆れたように吐き捨てた分析に、平次は罰が悪そうに、冗談交じりに切り返す。 「つい最近まで小学生やった工藤になんか、言われたないわ。」 新一がむっとしたように睨み返しても、平次はお構いなしでニヤニヤ笑いながら、さっき新一がして見せたように、子供声を作って続けた。 「コナン君かて蘭姉ちゃんにいぢわる言うたりしたことあるんちゃうか?」 そう言う平次が、何とか話題を新一と蘭の方に戻そうとしているのは見え見えだ。 「工藤 新一の姿に戻ってからはねえよ。」 「ホンマかいな。」 「ああ。」 びっくりしたように、平次がマジマジと新一を見つめる。 台所からは、蘭と和葉のとても楽しそうな笑い声が聞こえてくる。 一度、その笑い声のするほうに目を向けた平次が、また新一に視線を戻す。 「まったくないか?」 「そりゃ、からかったりはするけど、お前みたいに蘭を傷付ける様な事は言ったりしねえよ。」 新一がまじめに答えているのも、平次にとっては意外なことだったらしい。 暫く平次は新一を探るように見ていたが、やがて、照れたようにまた頭を掻いた。 「まあな。俺は工藤と違うてキザな事ばっかり言えへんからな。」 「そうじゃねえよ。」 新一の真剣な表情に、平次も思わず釣られる。 「何かあった時に、考えちまうんだ。あんな事言っちまった、とか、これは言っといてやりたかった、とかな。」 平次はちょっと考えるように口を開いた。 「まあな。俺らの仕事は、いつ何があるか、分からへんからな。」 「ああ。」 「せやけど、俺はあかんな。もし俺が工藤みたいに和葉の前から姿消さなあかんようになったとしたら・・・」 「なったとしたら?」 「和葉には、待ってて欲しくはないな。不安な思いさせるくらいなら、忘れられた方がましや。」 新一が見た平次の顔は、以外に真剣だった。 「工藤は偉い思うわ。約束通り、ちゃんとあの姉ちゃんの前に、戻って来てんねんもんな。」 「べつに、偉かないさ。ずっと傍に居て泣いてるあいつを見てるのも、辛いもんだぜ。」 「ああ。俺には耐えられんな。」 「だったら。そんな時泣かせないで済む様に、もっと優しくしてやれよ。」 新一が平次を横目でみる。 「お前がそう言ったって、彼女がお前を待つだろうって事くらい、お前だって充分分かってんだろう?」 「さあな。案外さっさと結婚なんかしてんのと違うか?」 「よく言うぜ。そんなこと、これっぽっちも思ってない癖に。」 新一が笑いながら平次を軽く睨むと、平次は思いっきり照れまくり、その場から逃げるように、台所に向かって無駄な程の大声で声を掛けた。 「お〜い!コーヒーまだかぁ?」 |
台所に戻っても、和葉の怒りは収まらなかった。 洗った皿を拭きながら、和葉はまだブツブツ言っていた。 「まったく。ほんまに頭にくるわ。」 蘭が受け取った皿を戸棚にしまいながら、和葉をなだめる。 「まあまあ、和葉ちゃん。服部君だって、ホントは悪気ないのよ。」 「そんなん、分かってるわ。せやから余計腹立つねん。」 「え?」 和葉の言葉に、思わず蘭が振り返る。 和葉も蘭を見ると、悔しそうにもう一度言った。 「せやから、悪気ないんは分かってんねん。平次はあたしが怒るの見て楽しんでるだけなんや。」 そんな和葉の言葉を、蘭は思わず微笑ましく思いながら聞いていた。 「小学生が好きな子に悪戯するような感じなんだろうね。」 「どうやろ。どっちか言うと、ガキ大将が妹いぢめてる感覚なんと違う?」 蘭には、今の和葉がとても可愛く見えていた。 ずっと隣にいて、それでも気付かない振りをしていた時期が長かったせいか、今は、こんな当たり前の不安やドキドキを感じることは余りなくなっていた。 2人の仲が進展しないとはいえ、新一が自分を大切に思ってくれているのも感じるし、だからこそ、今の和葉の様な当たり前なことに拗ねたりするコトが、いけない事の様に、思っている部分がある。 「せやけど、工藤君と蘭ちゃんには悪いけど、もうコナン君に逢えへん思たら、ちょっと寂しいなあ。」 和葉は蘭を見て、にっこり笑った。 「あたし、結構好きやってん。あの、小生意気なコナン君。」 「たしかに!今考えたら、あんな小学生、いないよね。」 蘭と和葉は顔を見合わせて笑った。 リビングを振り返ると、男2人がなんだか顔をつき合わせて、真剣に話している。 「どうせまた、事件の事でも話てんねんで、きっと。」 和葉がそう言って拭き終わった最後の皿を蘭に手渡して、コーヒーの準備に入ると、蘭は和葉に視線を向けた。 「ねえ、和葉ちゃん。」 「ん?」 目が合った和葉が思わず手を止めるほど、蘭は突然、真剣な目をしていた。 「いつも喧嘩できることはとっても幸せだけど、時には気持ちを伝えなくちゃ、駄目だよ。」 言われた和葉がついうろたえる。 「な・・・蘭ちゃん。何言うてんの、いきなり。」 「私ね。新一が居なくなった時、考えたの。待ってていいのかなって・・・新一、ホントは私のことなんて忘れちゃって、事件のことしか頭になくて、私が待ってることが迷惑じゃないかなって。」 「蘭ちゃん・・・」 「だから、初めて連絡くれた時とか、待ってろって言ってくれた時とか、すごく嬉しかった。」 和葉はそんな蘭の表情をじっと見つめた。 蘭は和葉の視線を受けると、すぐにいつもの笑顔に戻った。 「ごめんね。なんか、縁起でもない事言っちゃって。」 そう言うと、慌ててコーヒーポットにお湯を注いだ。 蘭の手元を眺めていた和葉が口を開く。 「平次は待ってろなんて、絶対言ってくれへんよ。逆に待つなって言うと思うわ。」 蘭は黙って和葉の言葉を聞いていた。 「でも、あたしは絶対待ってんねん。」 そんな蘭に今度は和葉が笑いかける。 「だって、あたしが待ってへんかったら、平次、かっこつけやから、いつまでも帰って来えへんもん。」 「和葉ちゃん・・・」 蘭と和葉がしみじみと顔を見合わせていると、無神経そうな平次の大声が聞こえてきた。 「お〜い!コーヒーまだかぁ?」 |
平次の催促の声に、蘭と和葉がお盆を手にリビングへ戻ってくる。 「あんたなぁ。ちょっとは我慢出来へんの?」 「お前らこそ、コーヒー入れるのに何時間かかっとんねん。どうせ和葉が何かしでかして、足引っ張りよったんやろ。」 「なんやて!」 相変わらず喧嘩腰で言い合う平次と和葉を、”やれやれ”と言った思いで見つめる新一と蘭は、思わず目を見合わせて、笑い合った。 それから、その夜、蘭と和葉はいつまでも、いつまでも、取り留めのないおしゃべりをして過ごした。 新一と平次は、新一の自慢の書斎へ立てこもり、沢山の推理小説について、議論したり、”江戸川コナン”の名前の由来を白状させられた新一を、平次がからかったりして過ごした。 ただただ楽しい時間を過ごすそれぞれの胸には、今まで起こった色々な出来事が、それぞれの視点からの思い出や経験として、しっかり刻まれている。 これから、この4人は、どんな事件に遭遇するだろう。 どんな人生を歩くだろう。 こんな関係は、ずっと続いて行くだろうか・・・ 分からないことだらけでも、不思議と不安がないのは、きっと、男2人の優しさと、女2人の広さ、そして、4人の強さのせいに違いない。 今はもう、ここには居ない、”江戸川 コナン”が、この4人に与えたものは、とてつもなく大きくて、大切なものだったはずだ。 きっと、これからも、”江戸川 コナン”は、この4人の友情の中に、”5人目の仲間”として居続けることだろう。 |
いかがでしたでしょうか?
実は、今年の春に三作セットで書いたものの内の一作目なんですが(他の2つは、機会があったらUPしたいと思ってるんですけどね)、春といえば・・・”迷宮の十字路”公開前・・・だったので、おかしくなった内容をチョコチョコと書き直して、UPしてみました。
その後出た、コミックスのお気に入りの台詞を入れてみたり(どれだか分かっていただけますか?)
変な構成になってますけど、読み方、分かって頂けたでしょうか?
それが一番心配です;
”男の子SIDE”だけを繋げて読んで、その後”女の子SIDE”だけを読んでも良し。
両方見比べながら読んでも良し(^^)v
お好きな方で楽しんで頂けると嬉しいです。
ぷりこ作品には、実はとても多い書き方だったりします♪
単に、考えた台詞を上手く並べきれないから、分けて書いてるだけなんですけどね(^^;)ゝ
本当は、どっちかのカップルを既にくっつけちゃった話にしようかと悩んだんですが、原作至上主義のぷりこの想像力では、この辺が限界でした(><;)ゝ
今回は、約半年振りに読み返してみて、自分の表現力のなさを痛感し、書き直してみて更に、自分の成長のなさを痛感し・・・(ToT)
書きたかった雰囲気というか、設定など、ちょっとでも伝わってると、嬉しいです。
そして、感想なんか頂けると、ぷりこは泣いて喜びますvv
では、長々とお付き合い、ありがとうございました☆