Gravity
「和葉ちゃーん!服部くーん!」蘭が二人に駆け寄る。後ろからはいつもの通りコナンと小五郎が歩いてくる姿も見える。
「蘭ちゃん。久しぶりやなぁ。あんまり人が多いさかい会えへんかと思ったわ。」
ごったがえす京都駅のホームで二人がしっかりと手を取り合う。
商店街の抽選で、相変わらずの“鬼のような引きの良さ”を発揮した蘭が、見事2泊3日の京都旅行を引き当て、合わせるように和葉と平次も京都に来ていた。
「蘭ちゃん、何処行きたい?この辺は子供のときによう来てたさかい、案内したげるし。」
「ありがとう。前回来た時は事件で観光どころじゃなかったから、行きたいところいっぱいあるんだ。」
「おいおい、観光なら子供らだけで行ってこい。俺ぁ早速舞妓さんでも拝みに・・・」
「ちょっとお父さん。昼真っからお酒飲む気?」
蘭の抗議の声にも耳を貸さず、小五郎は小躍りしながら行ってしまった。
「ちょっと、お父さん!」
「まぁまぁ、姉ちゃん、ここは俺らがしっかりあのおっちゃん見張っとくさかい、気にせんと和葉と観光してきぃや。その代わり、このちっちゃいの借りるで。」
平次がコナンの頭をぐりぐり撫でる。
「おい、服部。」
「まぁ、ええやないか。男は男同士。な。」
「相変わらず、仲ええなぁ。」
不思議そうに見る和葉に平次はにんまり笑って見せると、
「じゃ、後でな。和葉、しっかりこの姉ちゃん案内したるんやで。」
と、颯爽と歩き出した。
取り残された2人が気を取り直して歩いて行くのを確かめて、コナンが平次に突っかかる。
「で?どういうつもりだよ。あの2人を追っ払ったからには、どうせまた、何かあるんだろ?」
「そうや。ちょっと工藤に“用”があってんけど・・・なんや、バレバレかいな。」
「ったりめぇだ。お前らがわざわざ京都まで来るって言うからには、どうせそんな事だろうと思ってた・・・って、おい!服部?」
ついさっきまで隣を歩いていたはずの平次の姿が見えず、コナンが振り返る。
平次は何を思ったのか、土産物屋の前で立ち止まって、店頭に下げられたキーホルダーを眺めていた。
「どうしたんだ?」
「あぁ〜、なんでもない。ちょーここで待っとってや。」
そう言うと平次は整然と並んでぶら下がっているキーホルダーの中から、手鞠をかたどった物を手に取ると、店の中へと入っていった。
「(は〜ん。なるほどね)」
コナンも納得すると、ふと、前回京都に来たときに遭遇したあの事件に思いを巡らせた。
平次の言う“用”とやらは、思ったよりもたいした事件ではなく、夕方再び蘭たちと京都駅で落ち合う頃にはすっかり片付いていた。
それからの2日間は何事もなく過ぎ、帰りの京都駅。
「ほら、和葉ちゃん。」
蘭が和葉の腕をひじで突っつく。
「やっぱりいいって。ウチあれ自分で使うし。」
「何言ってんの。せっかく買ったんだから、渡さなきゃ。」
蘭に背中を押された和葉がおずおずとポケットから小さな土産物屋の包みを取り出す。
「平次。これ、京都の土産や。」
手渡された包みを開いた平次の手のひらに、コロンと小さな手鞠のキーホルダーが転がり出る。
しばらくキョトンと見ていた平次は、ほんの一瞬照れて見せ、すぐにいつもの表情に戻ると、
「あほらし。京都来た位で何が土産や。」
と、キーホルダーを和葉へ投げてよこした。
「ちょ・・・ちょっと。服部君!」
蘭が慌てて食ってかかる。
「ええって、蘭ちゃん。平次はそういう奴やねん。」
完全に頭にきた和葉が平次を一瞥すると、そのキーホルダーを蘭へと差し出す。
「これ、蘭ちゃんが使ってや。」
「でも・・・」
「だめだよ蘭姉ちゃん。そのキーホルダーは和葉姉ちゃんが使わなきゃ。」
ためらう蘭にコナンが思わず声を掛ける。
「あぁ〜。ほんま。平次なんかに土産なんか買おう思うたウチがあほやったわ。」
そう毒つきながら、和葉が拗ねた様に自分のバッグにキーホルダーを付けるのを見てない振りで確かめる平次。
コナンが呆れた様に睨みながら、平次に小声で
「あのままあのキーホルダー蘭が使うことになったらどうするつもりだったんだよ。ったく、世話の焼ける。あんなこと言わなくても普通に渡せば良いだろ。」
と抗議すると、
「何の事やら分からんなぁ。」
と、澄ました顔で聞き流す平次。
そのポケットの中では、しっかりと、和葉のくれた手鞠のキーホルダーが握り締められている。
そして、和葉のバッグでは、平次の買ったお揃いの手鞠のキーホルダーが揺れている。
「(ったく。だいたい、服部の買ったキーホルダーなんか、蘭に使わせられるかっての)」
一人だけすべてを知っているコナンのこんな気持ちには、きっと誰も気づかない事だろう。
命さんのサイト、”gravity”で、そのサイト名と同じ”gravity”を御題に作品を募集していらっしゃったので、投稿しようと思って書いた作品です。
”gravity”とは、”重力・引力”といった意味なんだそうですが・・・どうも御題に沿った作品になったかどうか、不安なところです。
命さんが書いてらした”gravity”を読ませて頂いたんですが、ぷりこには想像も付かないプライベートな”平次×和葉”ワールドが広がっていて、とても素敵でした。
同じタイトルでこうも違う作品が出来上がるのかと感動しました。
命さんが挿絵を描いてくださいました。
とっても素敵なイラストで、ぷりこの駄文には勿体ない様ですけど、これ欲しさに
描いた様なものなので、遠慮なく頂きましたvv
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