ゴールデンウィークも終わり、久しぶりの学校の帰りに、コナンが少年探偵団のみんなと、いつもの様にサッカーをして、毛利探偵事務所に帰った頃には、もう夕方5時をまわっていた。
「ただいまぁ」
返事はなく、探偵事務所の中は静まり返っていた。
「何だよ。またおっちゃん、飲みにいってるな」
呆れたようにつぶやいて、ランドセルを置くと、まずテレビをつけて、ソファーにちょこんと腰を落ち着けた。
いつもなら今頃は、蘭が台所で夕飯の支度をするコトコトという音と、いいにおいが漂っているはずだが、今日はその気配もない。
きっと部活で遅くなってるんだろうと考えながら、無用心にも鍵もかけず開きっ放しだったドアを眺めると、思わずため息が出てくる。
「ったく、探偵事務所が泥棒に入られちゃ、洒落になんねぇっての」
依頼者も来ない事務所で暇をもてあましていた小五郎が、飲み仲間に誘われて、大慌てで意気揚々と飛び出して行った様子が手に取るように分かる。
数日前には、妙な爆弾事件に巻き込まれ、自分の娘が死にそうな目に遭ったってのに、まったく元気なもんだ。
テレビでは、ゴールデンウィークの連休中に世間を騒がせた、有名建築家の引き起こした爆弾事件のニュースで持ちきりだった。
暫くはそんなニュースに見入っていたコナンだが、蘭の帰りが遅いことが少しずつ気になり始めていた。
普段より少しでも遅くなるときは、蘭は必ず電話をしてくる。
蘭だって色々と用事だってあるだろうとは分かっているが、あんな事件があったばかりだから、ついつい心配になってしまう。
コナンがもう一度時計に眼をやった時、不意に奥の部屋のドアが開き、蘭が顔を出した。
「蘭・・・姉ちゃん?」
「コナン君。帰ってたんだ。お帰り」
一瞬驚いたように立ち止まった蘭は、すぐにいつもの優しい眼でコナンに笑いかけた。
「あ・・・うん。ただいま。」
全然気付かなかった。なんだ、蘭はずっと自分の部屋にいたんだ。心配させやがって。
「蘭姉ちゃん、いたんだ」
「うん。ちょっと部屋でウトウトしちゃって。今何時?」
蘭が眼を擦る。
「6時半」
「やだぁ。もうそんな時間?すぐに夕飯の支度するから、コナン君、ランドセル部屋にしまってらっしゃい」
「はぁい」
コナンがソファーから飛び降り、ランドセルを抱えて部屋を横切ると、蘭は腕まくりをしながら台所へと入っていった。
「(何だよ、心配させやがって・・・)」
もう一度胸の中で呟いて、部屋へ行こうとする途中、蘭の部屋のドアが開いているのに気付いて、ふと、足を止めた。
薄暗い部屋の中で、蘭のベッドの上に広げられた赤いシャツが、コナンの眼に飛び込んできた。
赤いシャツの横にはいつか2人で撮った写真が置かれていた。
「蘭・・・?」
コナンは思わず、台所の蘭を振り返った。
今はいつも通り、楽しそうに鼻歌など歌いながら料理をしている蘭。
鼻の頭と大きな瞳が、少し赤い・・・。もしかして、部屋でずっと、泣いてたのか?
食事も終わり、酔っ払って帰ってきて、今は高いびきをでソファーに横たわっている小五郎を横目で見ながら、コナンは蘭の部屋のドアをノックした。
「蘭姉ちゃん、お風呂あいたよ」
ドアを開けると、ベッドの上に、今度はきちんと折り目正しくたたまれた赤いシャツを眺めながら、蘭がぼんやりと座っていた。
「蘭姉ちゃん・・・?」
「うん。ありがとうコナン君」
コナンの声にやっと気付いたように、慌てていつもの笑顔を作って、蘭がベッドを離れ、タンスからパジャマを取り出す間、コナンはベッドの上に置き去りにされた赤いシャツをじっと見つめていた。
「蘭姉ちゃん・・・このシャツ・・・」
「ああ、それ?新一の誕生日のプレゼントのつもりで買っといたんだけど、渡せなかったの。あいつったら、待ち合わせ場所に遅れて来ておいて、また何にもいわずにいなくなっちゃうんだもん」
努めて明るく笑顔で話す蘭の瞳から、不意に大粒の涙がこぼれ落ちた。
「蘭姉ちゃん・・・」
その瞳から流れる涙を、蘭は笑いながら必死で拭った。
「やだ・・・どうしたんだろうね。コナン君の顔見てたら、急に涙が出ちゃった」
「(蘭・・・)」
なおも必死に涙を拭おうとする小さな手を、今はもっと小さくなってしまっている手で、コナンがそっと握った。
「コナン君・・・」
キョトンと見つめる蘭の瞳から流れる涙が、防波堤を失って頬に伝い落ちる。
「コナン君。赤い糸なんて、本当は最初から無いのかも知れないね」
そう言うと、暫くの間、蘭はコナンに手を握られたまま静かに泣き続けた。
「蘭姉ちゃん。泣かないで。赤い糸はちゃんとあるから」
---今のコナンの体じゃ、こんなことしか言ってやれない。
泣くな・・・蘭・・・泣くな・・・
泣いてるお前を抱きしめてやりたくても、今の俺の手は、こんなにも小さいんだ。
絶対いつか、本当の俺の声で、お前の名前を呼ぶから、
絶対にお前の前に帰ってくるから、約束するから・・・
それまでお前が、笑顔でいてくれなくちゃ、困るんだ。
だから、もう、泣くな・・・蘭・・・ ---
「蘭・・・」
蘭が、びっくりしたように、顔を上げ、コナンの姿を認める。
「(馬鹿だな・・・コナン君が一瞬、新一と重なるなんて・・・)」
「蘭姉ちゃん。僕、明日、阿笠博士の所にこのシャツ預けてくる。きっと新一兄ちゃんから連絡があると思うから。新一兄ちゃん、きっと喜ぶよ」
「うん。ありがとう。コナン君」
精一杯コナンに笑いかける蘭の瞳が、コナンの・・・新一の胸をいっそう締め付ける。
---数日後---
蘭の携帯に届いたメールが、ようやく蘭を笑顔にする事になる。
そして、ちょっぴり怒らせる事にもなる。
『あんな真っ赤なシャツ、派手すぎて何処にも着て行けねぇよ!
仕方がねぇから、大切にしまっておくか。・・・まあ・・・サンキュー 新一』
さてさて・・・いかがでしたでしょうか?
新一×蘭?・・・と言うより、コナン×蘭・・・かな?
何せ、ぷりこはコナン君大好きなので、どうしてもこうなっちゃいます(^^)ゝ
一応”時計仕掛けの摩天楼”のぷりこ的続編といったつもりなんですが・・・
果たしてぷりこの駄文で、気付いてくれた方がいらっしゃっただろうか・・・?
ラブラブのお話を描きたかったんだけど、何か、切なくなっちゃいましたね。
やっぱ、ラブラブは、ぷりこ的に無理があるようです。・・・テレ屋なもんで・・・はい・・・
こんなんですけど、感想なんか頂けると、ぷりこは泣いて喜びます。

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