考えている暇はない。私は一目散に洞窟を飛び出した。
とにかく、この辺りの地形に無知な私にとって、あのまま洞窟の奥に入ることは自殺行為だ。 外に出れば、もしかしたら、上手く逃げられるかも知れない。
それに、私は逃げ回るだけじゃなく、私を犯人に仕立てあげようとした本当の犯人を突き止めないといけないのだ。
私は、もうすっかり夜も明けて、明るくなった砂浜を歩きながら考えた。
まず私がすべき事は何だろう・・・
とにかく、別荘の様子は知りたいけど、今別荘に近づくのは危険だ。
私はとりあえず、近くのコンビニに行くことにした。
今だったら、まだ、警察は別荘についたばかりで、私を探しに来てはいないだろう。これから何日こんな生活をしなきゃいけないのかも分からないんだから、今のうちに必要なものを買っておこう。
私は早速、コンビニに行くと、食料、飲み物、タオル、ティッシュ、懐中電灯、それと、ペンにメモ帳を買いこんだ。やっぱり思った通り、警察の捜査はまだ及んでいないらしく、買い物は何の問題もなく済ます事が出来た。
私は買い物を済ませると、また、浜辺に戻り、国道からの視界に入らず、周りからも目立たない岩場を探した。
そこに腰を落ち着けると、私は買ってきたばかりのペンとメモ帳を取り出し、藤田君の部屋で見た数字を書き込んだ。
1475369/258
一体どう言う意味があるんだろう。
それに、誰が書いたんだろう。
私は、自分の頭をフル回転させた。でも、数字の意味は、さっぱり分からない。
ただ、思うのは、この数字は、藤田君の残したダイイングメッセージかも知れないと言う事だ。これを書いたのは、藤田君か犯人のどっちかの可能性があるけど、単純に考えて、犯人がこんな、手がかりになりそうな物を残すとは考えにくいからだ。
きっと、藤田君は、犯人があの部屋から出ていった後も、少しの間意識があって、最後の力で、このメッセージを残したのだ。
しばらくの間、私は考えに没頭していた。その考えを中断させたのは、けたたましいパトカーのサイレンだった。
大丈夫。ここは国道からは全く見えない場所にある。私はパトカーが通り過ぎるのを待った。
でも、パトカーは、すぐ近くの国道沿いで止まったようだった。
車の止まる音、ドアを開け閉めする音、そして、人の話し声が岩場の向こうから聞こえてくると、その人声は、だんだんこっちに近づいてくる。
『どうか通り過ぎて・・・』
私は、祈るような気持ちで岩場の影に、ますます身を小さくしてしゃがみこんだ。
でも、私の祈りは神様には全く届かなかった。
ふと気配を感じて振り向くと、そこ見いた警官と目が合った。
私が「あっ」と思った瞬間、その警官は大声を上げた。
「山口 美咲を発見しました!!」
そして、私があっけに取られている一瞬の間に、私の周りは、数人の警官に取り囲まれていた。
その後は、私の想像していた通りだった。
私がどんなに無実を訴えて、泣こうが騒ごうが、誰一人耳を貸す人はいなかったのだ。
私は連行されるパトカーの中で、ぼんやりと考えていた。
初めに少し考えれば分かった事だった。
コンビニに行ったのがやっぱりいけなかったのだ。
警察の捜査より早くコンビニに行ったからと言って、安全だなんて、全然言えなかったのだ。
こんな田舎のコンビニで、早朝に、地元では見た事のない女が、あれだけの買い物をすれば、嫌でも目立って、店員の記憶に残ってしまう。その後で警察がくれば、当然店員は、その女の事を話すだろう。
思えば、私のしたことは、初めっから選択ミスばかりだった・・・
藤田君の部屋から逃げた事。
洞窟から出た事。
コンビニで買い物なんかした事・・・
これだけの失敗をしておきながら、私は警察で、ちゃんと自分の無実を主張し続けることが出きるのだろうか・・・
私は、そんな事をぼんやり考えながら、パトカーの窓越しに、海を、眺めていた。
昨日あんなに楽しい気持ちで眺めていた海を・・・
それと、もうひとつ、気になる事がある。
----本当は、誰が藤田君を殺したんだろう----
きっと、今ごろ、真犯人の誰かさんは、別荘の自分の部屋の中で、ひっそりとほくそえんでいる事だろう。
<THE END>
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