私はそっと萌の部屋を抜け出した。みんなが下のリビングにいる間に、ちょっとだけでも自分の目で健の部屋の様子を見ておきたい。私は周りに細心の注意を払いながら、健の部屋へと急いだ。
私は健の部屋の中に入ると、電気を付けずに辺りを見渡した。
萌が言った様に、床にはまだ、血文字が残っている。
他にも手がかりがないかと探していると、突然ドアの開く音がした。振り返ると、そこには栄子が立っていた。
「美咲・・・何してるの・・・」
栄子は信じられないと言う表情でじっとこっちを見ている。
「こんなところでこそこそと・・・やっぱり美咲が犯人だったのね」
「違う!!私はただ、手がかりがないかと思って・・・」
「じゃあ、今まで何処にいたの。なんで隠れてたのよ」
栄子の言葉に、私は何も言い返せず、黙っていた。
「犯人は現場に戻るって訳?」
栄子の言葉に、自分でも意外なほどカッときてしまった。
「栄子こそ、こんなところに何しにきたの?」
私の問いに栄子は答えず、代わりに、別荘中に響き渡る声で悲鳴を上げた。
私が何が起こったのか分からずに呆然としている間に、気が付くと、警官が私の周りを取り囲んでいた。
「部屋に忘れ物をとりに戻ったら、健の部屋から物音が聞こえて・・・ドアを開けたら、美咲がいたんです!!」
栄子がヒステリックに叫んでいるのが聞こえる。
萌が警官たちの後ろから、不安そうに覗いている。
私はここで、萌の名前だけは出せないと決心した。
萌も何も言わない。
そして、私は、自分がどんなに甘かったかを思い知らされる事となった。
私がどんなに無実を訴えて、泣こうが騒ごうが、誰一人耳を貸す人はいなかったのだ。
私はそのまま、博人や野上君や栄子、それに萌の見ている前で、警官たちの手によって、別荘から連れ出された。
私は連行されるパトカーの中で、ぼんやりと考えていた。
初めに少し考えれば分かった事だった。
思えば、私のしたことは、初めっから選択ミスばかりだった・・・
藤田君の部屋から逃げた事。
中途半端な覚悟で、犯人を探そうとした事。
そして、萌に言われたにもかかわらず、部屋を出た事。
これだけの失敗をしておきながら、私は警察で、ちゃんと自分の無実を主張し続けることが出きるのだろうか・・・
私は、そんな事をぼんやり考えながら、パトカーの窓越しに、海を、眺めていた。
数日前にはあんなに楽しい気持ちで眺めていた海を・・・
それと、もうひとつ、気になる事がある。
----本当は、誰が藤田君を殺したんだろう----
きっと、今ごろ、真犯人の誰かさんは、別荘の自分の部屋の中で、ひっそりとほくそえんでいる事だろう。<THE END>
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